上智大学3年の女子学生の一人は、コロナウイルス流行時に家でSNSを見る時間が増え、その影響でダイエットを始めたものの、あるときから逆に「過食症になった」という。この春、取材班のインタビューに応じ、経緯をそう振り返った。
2021年3月、彼女は進学のため地方から上京してきた。コロナ禍のさなかに一人暮らしとなり、SNSを見る時間が必然的に増えた。韓国のK-POPのアイドルの身体の写真やアイドルたちが取り組んだとされるダイエット方法をSNSで見て、「そういう食生活してみようかな」と思った。
「K-POPアイドルを見てうらやましい、じゃないけど、頑張ろうかな、みたいな気持ちは、SNSで見るたびに確かに毎回、多少なりともあります」
高校時代は制服だったが、大学では服装が自由になり、「いろんな服を着てみたい」とも考えた。
主に目にしたSNSは、短尺の動画をシェアできるスマートフォン向けのサービスのティックトック、写真や動画の投稿をメインとしているサービスのインスタグラム、そして、世界最大の動画共有サービスのユーチューブ。
SNSを見る中でダイエットの方法を発信する人をたくさんフォローした。その人たちが紹介するダイエット法を片っ端から試みた。ティックトックで見つけたダイエット方法の映像をユーチューブで見ることもあった。
取り組んだ方法の一つは、韓国の女性歌手、IUさんが行ったことがあると言われている「IUダイエット」。朝はリンゴ1個、昼はサツマイモ1個またはバナナ2本、夜はプロテインシェイク1杯という食生活を5日間続ける。そのほかに、主食をさつまいもに置き換える「こぐまダイエット」も試みた。
その結果、体重が4キロ減った。
「なんか、めちゃ、やせたんですよ、最初。オンライン時期だったし、しかも暇だったんで、やせるためのトレーニングを調べてやってて、めっちゃ動いてたのもあって、すっごいやせて」
それらダイエット方法の科学的、医学的な根拠や問題点について当時は考えなかったという。
「暇だしとりあえず全部やってみようかな、みたいな、手当たり次第やってみて効いたら続けようぐらいで……」
しかし、5月のある日、急に「なんか甘いのを食べたい」と強く思うようになった。
「何か(甘いものが)恋しいじゃないですか。一回何か口にしたらもう止まらなくなって。急にポッと食べ始めた感じです」
それまで「やせるために身体を動かす」だったのが、「動いていれば食べていいのでは」と考えるようになり、さらに「動いたし、食べちゃおう」、「食べるために、やせなければ」と思うようになっていった。
「食べてまた食べて、病む、みたいな。最終的にすごいめちゃめちゃ食べちゃった日はなんか罪悪感を感じてました。そのために戻してたんですよ。食べたぶんを戻せばこれ太らないやと思って……」 当初、食べた分を運動で消費すればいいと思っていたが、やがて、「どれだけ食べても吐けばいい」という思考になっていた。
「吐くのがつらい」というよりも、食べることに幸せを感じた。回数を重ねることで、吐くのに慣れて、そのつらさは軽減した。吐きさえすれば、「食べているのに、やせられる、なんて最高じゃん」と思った。
しかし、いくら吐いても、全てを吐ききれるわけではない。このため体重は増え、7月ごろには自己最高体重の63キロになった。
そして、2022年4月、コロナウイルスによる規制が緩和され、大学の講義が対面で行われるようになった。サークル活動が始まり、私生活も充実していった。すると、過食も嘔吐もなくなっていった。
「学校に行くことが増えたときに、サークル活動とか忙しくなったら、何かダイエットとか考える暇がなくなって、最終的に食生活は戻っていって、という感じでした」
ダイエットを始めた当時を振り返って、彼女はSNSの影響の大きさを指摘する。
「もともとK-POPアイドルにはあこがれがあったこともあって、ユーチューブ、ティックトック、インスタグラムでK-POPアイドルが実践しているダイエット法を見かけることが多かった。一度検索をかけてしまうと特にティックトックやインスタグラムでは何度も同じような内容が流れてくるんですよ。それで連続して見て影響されたかな」
取材に応じた2023年春時点で、彼女はSNS上でダイエット関連のインフルエンサーのフォローをやめていた。それでも、SNSでダイエット情報が目に入ってしまうことは今もある。だが彼女は言う。
「おすすめ欄は全部無視です。YouTubeのアンケートとかも基本全部無視してます」 彼女は現在、平日は大学とアルバイト、土日はサークル活動と忙しく充実した日々を過ごしている。
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