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歌舞伎町の同一ビジネスホテルそばで3週間に4人が転落死

  • 長岡 恵利
  • 5 時間前
  • 読了時間: 10分

トー横キッズ、彼らは「非行少年」か「支援を必要とする若者」か


 東京都新宿区歌舞伎町1丁目の高層ビル「新宿東宝ビル」の周辺に集まる十代の若者たち「トー横キッズ」の間に、進学をあきらめ、将来の選択肢を狭めるだけでなく、自殺したいとの願望が漂っている。2024年9月には、歌舞伎町2丁目にある同一のビジネスホテルのそばで少なくとも2組4人が転落死した状態で見つかる悲劇が起きた。コロナ禍の影響で2020年以降、トー横キッズは増えてきており、薬の“オーバードーズ”や“パパ活”が常態化している。

 

浩三さん


 2024年12月、冷たい夜風が吹く中、私たちは新宿・歌舞伎町の「トー横」――新宿東宝ビル横を意味するこの場所――に設置された青い柵の前で、一人の男性と出会った。


 浩三さん(42)――。


 私たちがトー横について知りたいと言うと、浩三さんは私たちを連れて、広場すぐ近くのカフェへ行き、自身の体験や見聞をもとに、トー横の実情を語った。


浩三さん=2025年1月19日、東京都千代田区、岡﨑祐仁撮影
浩三さん=2025年1月19日、東京都千代田区、岡﨑祐仁撮影

 2023年3月26日、当時16歳だった娘のあきこさんを横浜で亡くした。あきこさんは、トー横キッズだった知人男性とともにホテルの最上階から飛び降り、自らの命を絶ったという。浩三さんは、娘がトー横に通っていたことすら知らなかった。


 現在、浩三さんは、会社員・二児の父として忙しい日々を過ごす中、娘の死の真相を探ろうと、トー横に定期的に足を運ぶ。トー横キッズたちが危ない目にあわないよう見守っている。TBSや朝日新聞などのインタビューに応じ、問題の根幹を探りながら、必要な支援を模索している。

 

子どもを巻き込んだ犯罪


 浩三さんによると、歌舞伎町に出入りする大人の中には、善意を装いながら、実際にはトー横キッズの「自宅に帰れない、帰りたくない」という心理を利用して犯罪に巻き込む人たちがいる。そうした人たちをトー横から排除するのは難しい。


 「当たり前のことだけど、大人は子供よりも強いですよね。歌舞伎町は昔、ただ単に治安の悪い場所だった。それがコロナウイルスの拡大により、家で過ごすことが苦痛な子供たちがトー横へ足を運ぶようになった。悪い大人と子供たちが関わって今の流れができてしまった。」


 浩三さんはそう分析する。


 「今後もトー横キッズが関係して発生する事件、事故を減らすために実際に現地に行くことで情報収集していければ。」


「トー横」と呼ばれる歌舞伎町シネシティ広場=2025年2月27日午後5時41分、東京都新宿区歌舞伎町、岡﨑祐仁撮影
「トー横」と呼ばれる歌舞伎町シネシティ広場=2025年2月27日午後5時41分、東京都新宿区歌舞伎町、岡﨑祐仁撮影

                          

 トー横キッズとは


 「彼らは死に対する恐怖心が極めて低いのでは。」


 トー横キッズについて、浩三さんはそう感じるという。


 浩三さんは、2024年9月に歌舞伎町で相次いだ転落事故に言及した。毎日新聞は次のように報じている[i]


 「20日午前3時50分ごろ、東京都新宿区歌舞伎町2のビジネスホテル付近で、「上から人が飛び降りた」と119番があった。ホテルの敷地内などに10~20代とみられる男女2人が倒れており、病院に搬送されたが、2人とも死亡が確認された。警視庁新宿署は、2人がホテルの外階段から転落したとみて、身元の確認を進める。1日にも男女が同じホテルの外階段から転落して死亡している。」

 

 2024年9月1日、20日と若い男女2人ずつが同じホテルから転落し、亡くなった、というのだ。私たちは、東京都情報公開条例に基づき関連資料の開示を東京消防庁に請求した。


 東京消防庁が私たちに開示した文書「小隊活動記録票」によれば、91日午後750分、そして920日午前3時46分にそれぞれ通報を受け、消防隊が出動している。9月1日夜の通報で消防隊が到着した住所地は「歌舞伎町2-33-3」となっており、この住所が示す先はホテルリブマックス新宿歌舞伎町と同一だった。9月20日未明の通報で消防隊が到着したのは、「歌舞伎町2-40」となっており、前述のホテルリブマックス新宿歌舞伎町のすぐ隣だった。私たちは、消防隊がこの両日に歌舞伎町1丁目、2丁目に救急出動した際の救急出動記録表を全て確認したが、ほかにこの住所付近で発生した事案は見当たらなかった。つまり、ホテルリブマックス新宿歌舞伎町のすぐそばでひと月の間に少なくとも4人が転落死した状態で見つかったのだ。

 

 2025年12月2日、ホテルリブマックス新宿歌舞伎町に電話をかけて取材を申し込んだ。2024年の飛び降り事故について聞くと、スタッフの一人は、「昨年のそのようなことが起きた時のスタッフは支配人も含め、外国人労働者は帰国・退社し、正社員は異動したため、当時の状況を知っている人はいない」と答えた。


 ホテルリブマックス本社には2025年11月26日、公式ウェブサイトのフォームを通じて取材を申し込み、以後、電話で催促を繰り返したが、返答はなかった。

 

 トー横キッズたちについて、浩三さんは、希死念慮(きしねんりょ)--生きたくないとの思い--の強さを見いだす。オーバードーズ、つまり、本来の用法や容量を超えた薬の大量服用を日常的に繰り返してしまう精神状態にある子たちが少なくない。常識のある大人たちによって見守られることのできる環境が必要だ、と浩三さんは指摘する。


 彼らに最も必要な支援は何なのか。その答えは現時点で見つかっていない。家や児童相談所の代わりとなる第3の場所をつくることができればいい、と浩三さんは思う。


 歌舞伎町「トー横」周辺では、警察による一斉補導が繰り返し行われている。その結果、彼らは児童相談所で一時的に保護される。でも結局は、そこから脱走することになる可能性が高い。家庭に半強制的に戻されても、そこに問題があれば、彼らはまた歌舞伎町に戻ってくるだろう。逆効果になりかねないと浩三さんは思う。

 

佐々木チワワさん


 2025年2月下旬、浩三さんの紹介で、私たちはフリーのライターで「歌舞伎町の社会学」を研究する佐々木チワワさん(25)に歌舞伎町のカフェでインタビューした。

 

トー横キッズの語源


 佐々木さん自身は、高校1年生だった2015年、大晦日に初めて歌舞伎町を訪れ、2018年、慶応大学に入学してから歌舞伎町にあるホストクラブに通うようになったという。慶応大学でオーラルヒストリーなどを学ぶうち、その研究のフィールドとして歌舞伎町に興味を持ち始め、現在はフリーのライターとして活動している。


 佐々木さんによると、2020年ごろ、トー横にたむろする未成年者たちについて、「トー横界隈」「トー横メイツ」と呼ぶ人が現れ、さらに、歌舞伎町のキャバクラやホストクラブ、風俗店で働く20代以上の人たちの間で、「トー横キッズ」と呼ばれるようになった。


 2021年6月、週刊誌FRIDAYに「トー横キッズを知っていますか?」というタイトルで佐々木さんの原稿が掲載された[ii]


 その記事が大きな反響を呼び、それをきっかけにトー横は社会問題化していった。テレビ番組やドラマの題材にトー横キッズが取り上げられるようになった。2022年2月には、NHKの「クローズアップ現代+」がトー横キッズを特集し、2月のギャラクシー賞月間賞を受賞した[iii]


 あっという間に「トー横キッズ」は世間に認知された。


 「そもそも『トー横キッズ』は揶揄されて付けられた蔑称なわけです。歌舞伎町の『夜職(よるしょく)』の人たちが、“路上で安い金額で歌舞伎町ぶってイキっている未成年”という意味で『トー横キッズ』と名付けた。キッズ本人は、周りからキッズと呼ばれると、『トー横界隈』と自分らを言い直すと思う。」

 

 「コロナ禍の自粛期間にキッズはかなり増加しました。家庭不和が起こる原因のコロナとして、思春期に嫌いな親とかがずっと家にいるんです。虐待をされていた、とか関係なく子供にとって家に閉じ込められる閉塞感から一時的でも逃げ場としてトー横があった。」


 「一つの文化になってしまった『トー横』に若者が集う原因の一つは、自分の将来が見えづらくなってきたこの時代で、自分の軸・自分なりの幸せのルールをつかむことが難しくなったから。現状からの離脱の一つとして死っていう選択肢があるのだと思う。」

 

 お勉強界隈


 「トー横界隈」でボランティアの一環として勉強を教え、トー横を盛り上げているという人たちがいる。2025年3月中旬、私たちは、歌舞伎町のカフェで、その人たちから話を聞いた


 あまちゃそさん(21)は大学生。


 らむさん(17)は高校を中退し、現在は社会人として働いている。


 ちなちなさん(16)は高校生。


 3人は自身もトー横に通い、トー横キッズの中でも「あまり荒れていない」中高生らを対象に2024年春から月1回のペースでマンツーマンの勉強会を開いている。

 

 講師は、東京大学の学生を中心としたボランティアの大学生。東大駒場キャンパスや東京都の相談施設である「きみまも@歌舞伎町」などお金のかからない場所を主に会場にしてきた。


 あまちゃそさんは、もともとトー横キッズではなかったものの、トー横にいる子どもたちと対等な目線に立ち、彼らに馴染めるよう、トー横特有の”地雷系”ファッションをしている。同じような恰好をしていると子どもたちから仲間であると認識されやすい。「寄り添う」ためには、行動から変える必要があるのかもしれない。

 

 らむさんは、トー横キッズについて、「トー横は社会的にみて最下層。進学とかそういう選択肢を捨ててしまう」と語った。


 あまちゃそさんはこれについて、「トー横の人たちは高校卒業後、消えていく場合が多い。卒業後の進路は夜職が多い。女性ならパパ活や売春系。男性はホストやメンコン(メンズコンカフェ)、土方のような力仕事が多い。」

 

 トー横特有の“言葉”があって、「トー横の若者たちは、パパ活や風俗などの言葉をクリーン化しているように見える」という。


 「『パパ活』を『案件』と隠語で言い換えることで、悪いことをしている意識をかき消している。」


 これは、無意識的ではあるかもしれないが、歌舞伎町に出入りする若者の罪意識をかき消す手段なのだ。

 

 ちなちなさんは「トー横は学校で友達を作るよりも簡単に友好関係を広げられる。実際に悪い大人に近づこうとしなくても、街柄、必然的に関わってしまうことがある」とトー横の危険性を口にした。


左からあまちゃそさん、らむさん、ちなちなさん=2025年3月17日、東京都新宿区、長岡恵利撮影
左からあまちゃそさん、らむさん、ちなちなさん=2025年3月17日、東京都新宿区、長岡恵利撮影

 

取材後記:三者、視点の違い


 浩三さんは、トー横キッズの自殺願望の強さや、子供を巻き込む犯罪、必要な支援について語った。


 佐々木チワワさんは、トー横に若者が集ってしまう要因について、社会学的な視点から語った。


 お勉強界隈の3人は、トー横キッズの将来への不安、トー横独自の文化、また、だれもが受け入れられるようなトー横の不思議な雰囲気を語った。

 

 総じて述べられるのは、トー横は若者、とくに未成年にとって危険と隣り合わせの混沌とした街である、ということだ。自殺願望の強い人たちによるオーバードーズや自殺が多発している。また、悪い大人が未成年に絡むことで凶悪な事件も起きている。トー横キッズがこういった悔しい命の落とし方をしないよう、行政だけでなく大人である我々も見守っていく責務があると考える。彼らを「非行少年」と捉えるのか、「大人に利用される子供」と捉えるのか、見方次第で問題解決への糸口も変わってくるだろう。

 

 取材を通して、彼らは、「居場所がない」のではなく「自分たちの居場所を探している」ようにも見えた。誰にとっても心から安らげる場所を作ることは難しい。周囲の大人は、彼らの声に耳を傾け、彼らと同じ目線で話し、支援の在り方を模索する必要がある。

 

 本記事では、トー横の支援者、歌舞伎町を研究するライター、トー横に実際に通う人々、この三者の視点からみた「トー横」という場所の捉え方の差異について、問題の根本について考えた。


 三者はみな、共通して「トー横」に対しての問題提起や内情について話したが、それぞれの立場によって視点が異なることがわかった。トー横問題の根本的な部分を掘り出し、未成年が巻き込まれる犯罪を減らしていけるような、私たちの社会でありたい。


【相談窓口】


・きみまも@歌舞伎町(東京都・若者相談支援)

東京都新宿区歌舞伎町2-44-1 東京都健康プラザハイジア17階

03-6709-6651(火曜日〜土曜日、午後3時~午後9時・祝日、年末年始を除く。)


・日本いのちの電話連盟 

0570-783-556(午前10時~午後10時)0120-783-556(午後4時~同9時、毎月10日は午前8時~翌日午前8時)


・こころの健康相談統一ダイヤル 

0570-064-556(対応の曜日・時間は都道府県により異なる)


・よりそいホットライン 

0120-279-338(24時間対応) 岩手、宮城、福島各県からは0120-279-226(24時間対応)


 

 

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