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  • 執筆者の写真奥山 俊宏

刑事訴訟記録を報道に活用 安倍晋三後援会事件や山口県副知事選挙違反で

 刑事訴訟法や刑事確定訴訟記録法の規定に基づいて、確定した刑事裁判の記録を検察庁で閲覧し、それを報道に活用する事例が近年目立っている。検察側、記者側の双方の意識の変化が背景にあるのだとみられる。


 朝日新聞高知版に2018年2、3月に連載された「闇の中の男たち」で、筆者の高木智也記者は、高知地検で閲覧した刑事訴訟記録に基づき、ウナギの稚魚の密漁事件の詳細を描いた。2018年3月2日掲載の第4回「禁漁期に『海へ』、察して集合」の記事では、「裁判の傍聴、事件の記録閲覧、捜査関係者への取材から明らかになった経緯は、およそ次のようなものだ」と前置きし、ある日の密漁決行の模様を次のように描いた。


 「海でも見に行ってみるかえ」  角刈りの組員が電話で誘い出すと、「つきあうわ」と眼鏡の組員が応じた。

 

 訴訟記録にあたったからこそ、暴力団組員どうしの方言混じりの密談をリアルに再現できたのだとみられる。


 東京高検検事長だった黒川弘務氏が産経新聞の記者や朝日新聞の元記者と賭け麻雀をしたとして罰金刑を受けた事件では、東京新聞が2021年11月21日の朝刊で、「『違法認識、軽い気持ちで』 黒川元検事長 賭けマージャン 刑事裁判記録開示 官邸との関係 疑惑は否定」と特報。記事によれば、その年の4月、黒川氏に関する刑事訴訟記録の閲覧を東京地検に請求し、黒川氏や記者らの供述調書や現場写真など約200枚分の記録が11月初めに開示されたという。


 安倍晋三元首相の秘書が政治団体・安倍晋三後援会の政治資金収支報告書に「桜を見る会」前夜祭の収支を記載しなかったとして政治資金規正法違反(不記載)の罪に問われた事件では、2022年4月26日、朝日新聞社のインターネット新聞「法と経済のジャーナル Asahi Judiciary」が「安倍元首相秘書『シビアな問題になりかねない』と違法な不記載 東京地検、『桜を見る会』事件記録の閲覧を記者に許可」、東京新聞が「安倍元首相の元秘書、違法性を当初から認識 『桜を見る会』夕食会補填問題で供述 本紙請求に開示」と報道した。前日の同月25日に、東京地検は以前から同地検にこの事件の確定訴訟記録の閲覧を請求してきていた記者たちにその閲覧を許可し、それが報道につながった。


東京地検が入る検察合同庁舎=東京都千代田区霞が関1丁目


 2023年1月16日には、山口県の副知事が2021年の衆院選の際に自民党議員の後援会への入会を部下に勧誘させたとして公職選挙法違反(公務員の地位利用)の罪に問われた事件で、中国新聞が「山口県の人事データで後援会勧誘 副知事の指示、開示資料で判明 公選法違反事件」と報じた。山口放送は、この事件の確定訴訟記録1344ページを閲覧し、「公開の裁判がなかったため、この記録で初めて分かる生々しい証言が多々ある」として、その詳細をウェブサイトで報道した。


 ウナギ密漁事件を除くと、いずれも、略式起訴による罰金刑で処理され、公判が開かれなかった事件。記者が記録を閲覧することで初めて事件の詳細が判明した。


 検事長の賭け麻雀事件や安倍晋三後援会事件について確定刑事訴訟記録にもとづく報道を手がけた東京新聞社会部の小沢慧一記者はのちに新聞週間特集の紙面で、「特捜部担当として(安倍晋三後援会の)事件を追っていた私は、(安倍氏の)説明責任が果たされたとは到底思えず、真相が知りたかった」といい、「そんな折、ジャーナリストの勉強会で、刑事確定記録の公開が請求できると知った。公開されるか否かは検察側の運用のため、確証はなかったが、最後のチャンスにかけた。略式起訴されてから約一年半後、元秘書の記録が公開された」と振り返っている(2022年10月15日、東京新聞朝刊20頁、「新聞報道のあり方委員会 新聞週間 検証と追及 さらに 真相迫る 刑事確定記録」)。


 こうした報道の背景について、詳しくは以下の論考で:奥山俊宏「刑事確定訴訟記録の閲覧で判明 首相秘書の犯行動機と司法の怠慢」『Journalism』2022年7月号。

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