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執筆者の写真佐藤 ちひろ

石丸伸二市長と議員の対立を描く社会派演劇 演出中津留章仁氏に聞く「掟」

「地域社会っていうのは、なかでも厳しい状況にどんどんなっていく」 政治への危機感あらわに-演劇を通して発信-30日には映画も公開

演出家の中津留章仁さん
演出家の中津留章仁さん

 社会問題を演劇に取り入れ、そこに生きる人々を描くのを得意とする劇団 TRASHMASTERS (トラッシュマスターズ)は今年2月、東京・下北沢の駅前劇場で演劇「掟」を全14回上演した。架空の地方議会での市長と議員、報道機関の人間模様がその題材となっているが、知る人が見れば、広島県の 安芸高田(あきたかた)市で実際にあった出来事をもとにしているのは明らかだ。それが映画「掟」となり、8月30日、公開される。脚本を書いた中津留章仁(なかつる・あきひと)さんにインタビューした。


 演劇「掟」は、政治に危機感を持ちX市の市長となった高村を主人公とする。高村市長は旧態依然な地方自治のありかたに対し市議会の透明化や財政再建を図ろうとする。しかし、議会中に居眠りした議員のことを自身のSNSに掲載し、市長と議員らの溝が深まっていく。二元代表制とは、市民の代表とは何なのか地方自治を問い直し、それらを取り巻く人々の人間ドラマを描いた。


 演劇「掟」で架空の「X市」が安芸高田市をモデルにし、その市長「高村市長」は、東京都知事選に立候補するために6月9日に安芸高田市長を辞職した石丸伸二元市長をイメージしていることは、だれの目にも明らかだ。


 5月30日午後、JR新宿駅東口近くのカフェで中津留さんに話を聞いた。


 安芸高田市の石丸伸二市長という具体的な名前を出さずに描いた理由を尋ねると、中津留さんは「ノンフィクションっていうのは、実際にこれがあったんだって、その事象について考えますけども…」と前置きし、次のように答えた。 


 「フィクションにすると、もう少し俯瞰できるというか、別に安芸高田市の話じゃなくても、たとえば自分の町はどうなるんだろうとか、どうなんだろうとか、私が住んでいる街の自治体は、その議会はどうなってるんだろうっていうふうに広く考えていくっていう、そういう材料になるのがフィクションにする理由の一つですよね」

 

 180cmを超える長身だが、いったん口を開くと話は途切れず、優しい印象を与える。


 安芸高田市を取り上げるきっかけは些細なものだったという。⼀昨年末ごろ、議会と市⻑が揉めている様⼦を知り、報道を追いかけて⾒ていた。当時は今ほどには騒がれていなかったが、これは芝居の題材になると考え始めた。

 

 劇団トラッシュマスターズはもともと「世直し」をテーマに掲げており、中津留さんによると、地方自治や自治体については、いくつかある軸のうちの一つとして恒常的に演劇に取り上げてきている。2018年に上演し、その後も再演した「埋没」は、昭和期の高知県大川村を取り上げ、過疎やダム問題を取り巻く人々を描いている。今年10月に再演する予定の「ガラクタ」は、北海道の町をモデルに、核廃棄物の最終処分場誘致とそれに伴う多額の補助金によって分断の深まる架空の町を描いている。安芸高田市の石丸市長をモデルに架空の市を描くのはその延長線上にある。 


 なぜ地域社会を演劇の題材にするのか尋ねると中津留さんは次のように語った。


 「地域社会っていうのは今後も厳しい状況にどんどんなっていくわけですよね。様々な分野の人がそのことについて考えていると思うんですよ。ぼくらは芸術家だから芸術の分野からそれをまた考えているっていうことであって、それは別にどんなジャンルの人であれ、その問題からは避けては通れないじゃないですか。ですから我々芸術家の観点から考えて表現しているんです。こういう問題提起みたいなことは、何ていうかな、やらなくちゃいけないって言うと言い過ぎかもしれませんが、あったほうがいいってことですよね、ないよりは」


 インタビューした5月30日当時は、石丸元市長が東京都知事選への立候補の意思を表明して1週間ほど。中津留さんは石丸元市長について「あの人は計算してますよね」と言及した。


 「話題を作る上では面白いと思いますけど、当選するかどうかは正直厳しいところがあると思います。おそらくどこかの首長にはなりたいんだとは思うんです」

映画「掟」のポスター  ©2024 チームオクヤマ
映画「掟」のポスター ©2024 チームオクヤマ

 当選は難しくとも、話題性があるため、宣伝などの効果を期待しているのではないか、というのが中津留さんの見立てだった。


 インタビューの1カ月余り後の7月7日に投開票が行われた実際の都知事選で、石丸元市長は現職の小池百合子知事に敗れ、当選こそしなかったものの、166万票を獲得し、蓮舫氏を37万票以上引き離して次点となった。



 映画「掟」は、「ハチ公物語」や「ソナチネ」で知られる奥山和由氏がプロデュースし、中津留さんが監督を務めた。8月30日からkino cinema新宿などで順次公開される予定だ。


 映画「掟」のPRのウェブサイトには、「劇映画でありながら現在進行形の現実に並走するように制作された」とある。中津留さん自身も演劇「掟」とは脚本を一部変えて制作したと言及した。

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